サラリーマン時代、私は法人営業職であったが、会社の製品・サービス、
上司・会社の方針が、仕事におけるモチベーションやメンタルに大きく
影響を与えるのは言うまでもない。
多少、上司や会社の方針がおかしい部分があったとしても、
製品力とサービス力が強ければ、十分補うことができる。
私がドイツ系外資会社に勤務を始めた頃は、製品力が他社と比較し
優位性があった。自社にとっての標準品であったものが
市場においては新規品に近い状況で、最終ユーザー(メーカー)での
採用率も高く、おかげで仕事にも張り合いがあった。
そのうち、日本国内の競合他社が類似製品をどんどん出してきた。
また、最終ユーザーのニーズも変わってくるので、新製品も
手掛けなければならないが、次第に競合に追い付かれ・追い越され、
という状況になった。営業だと肌身に直接感じることである。
ドイツ本国に、新製品のリクエストをしたとしても反応が鈍く、
日本の小さいマーケットに新製品を開発するというのは、なかなか
受け入れられない。日本でしか売れない新製品を開発するより
全世界に標準的に販売する製品開発の方が効率が良いからである。
数年後、リクエストした新製品に近いものは出てきたのであるが、
最初に日本のユーザーに最初に評価検討してもらった結果は、
いきなりNGであった。
日本の最終ユーザー(メーカー)が要求する品質条件は、同じ業界
であれば、ほぼ横並びと言って良い。なので他のメーカーでもNGに
なる可能性が高い。
しかしながら、NGとなったその製品に代用できるものはなく
品質的に良くないとわかっていながら、それを売り続けるしか
なかったのである。営業としては、これほどモチベーションが
下がる仕事はない。
こうした状況で、私は販売するというポジティブな目的を捨て、
この製品がいかに日本で受け入れられないかを証明するために、
営業を続けることにした。
あるとき、ドイツのマーケティングマネージャーが日本に来て、
私たちの営業チームの会議に参加することになった。
私は、何社ものユーザーでNG判定を下された結果を示し、
その製品では受け入れられないことを、敢えて報告した。
いちおう受け入れてくれたが、一方で、私の上司であった
(日本人)営業マネージャーは、これについて何も語ろうと
しなかった。
ドイツ本国のマネージャーにネガティブなことを報告するのは
自分の出世に響くのを知っていたから、私の報告にもかかわらず
だんまりを決めていた。
しかも、同じチームにいる同僚の後押しもなく、私は
孤軍奮闘の真っただなかにいた。
そんな中、ネガティブな状況一色だったわけではない。
幸いなことに、競合他社が唯一開発しなかった強力な製品があり
これを持って営業に集中し、数年後、温め続けていたいくつかの
プロジェクトが大成功することになったのだ。
ネガティブな状況でもやるべきことをやり、ポジティブな面を
こつこつと粘り強く続けていけば、やがて報われるということを
身を持って経験し、また証明したのであった。