サラリーマン時代のある時期、私はとてもありがたい「役職名」を
もらって仕事していた。役職名だけで判断すると、いわゆる部長と
課長の間のポジションとなる。
ところが、仕事上では役職名にふさわしい権限がなく、部下が数名
いながら担当職も兼ねるという激務をこなしていた。部下付き担当職
である。社内だけなら問題ないが、社外に出ると役職名で判断される
ため、客先との交渉時には、その場での即決(決裁)を期待されても
できない、というデメリットがあった。
数年後、マネージャー(部長)が変わったのを機に、役職を返上し、
普通の担当職にもどった。その後まもなく、私より年下の担当職が
「営業課長」となった。「とにかく出世したい」と私に言う程の
出世欲満々の人物であった。「そんなことを言わなくても、業績を
上げれば役職がついてくるのに・・・」と思っていたが、言う機会
はなかった。
そんな折、この営業課長に海外勤務という「出世」するチャンスが
巡ってきた。グローバルに展開する外資系企業は、海外に勤務する
機会がある。私が勤務していた会社でもヨーロッパ、東南アジアへ
転勤していた日本人もいた。
ある日、海外勤務の日本人の一人(仕事も人間的にも素晴らしい人
であった)方が、自分の昇進が決まったので、後任に上記の営業課長
を指名したいとのことであった。
ところが、日本法人の社長(外人)にその意向を伝えたところ、
「そんなことを言ってくれるな!」と猛反対されたという。
反対する理由は、日本の売上に貢献してくれている人材を出すわけ
にはいかないということであった。
本国から日本に赴任している(外人)社長の滞在期間は、3年から5年
である。その間の業績で次のポストが決まるため、何が何でも自分に
とって有利な環境を維持しようという考えに固執し、部下を昇進させて
いくという長期的な人材育成など、頭になかったわけである。
私がサラリーマンを辞める同時期に、この営業課長は同業他社へ転職
していった。